私が幼い頃に持っていた最初の絵本が、グリム童話の「おおかみと七ひきの子やぎ」だった。
これは記憶にあるかぎりの最初のもので、もっと古いのもあったらしいのだけれど、それは憶えていない。
これもよく知られたお話で、お母さん山羊の留守中に、お母さんに化けた狼がやってきて子どもたちを6匹まで食べてしまうのだが、一番小さい子は壁の時計の中に隠れて助かる。
狼が寝ているあいだにお腹をハサミで切られ、石ころを詰められたあげく死んでしまうところは「赤ずきん」と共通している。
メルヒェンの中の狼は悪の象徴であり、狼に呑まれるということは闇の中に閉ざされる状態だという。
そうしてまた、その闇が解かれて救い出される。
本物のメルヒェンは天から降ろされてきたもので、そこには天上の叡智が隠されている。
それらは近代以降、とても知的になった人々によって子ども部屋に追いやられてしまった。
神話や伝説、メルヒェンなど、いわゆるまっとうな“大人”からは「子ども向けのおとぎ話」として冷笑され、まともに扱われなくなったものの中に、叡智は身を隠して生き延びている。
このことは、柱時計に隠れた子ヤギを思い起こさせる。
大きい子どもたちは狼に呑まれてしまったが、いちばん小さな子は助かり、母親に状況を説明してみんなを助け出すことができた。
メルヒェンでは、小さな、あるいは馬鹿にされたりいじめられていた末っ子が、いちばん賢く重要な役割を果たすことが多い。
今の時代、叡智は何々会議等に集う“有識者”たちのところではなく、特に何も持たない人々のあいだに隠されて、ひっそりと時を待っているかもしれない。
posted by Sachiko at 22:53
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メルヒェン