ミヒャエル・エンデ『モモ』より。
モモの二人の親友のうちのひとり、観光ガイドのジジは、物語を話すことが何よりも好きだった。
モモと出会ってからは特に、彼の空想力はすばらしく花開いた。
モモが円形劇場から姿を消してすぐ、新聞に「ほんとうの物語の語り手としての最後の人物」という見出しで、ジジについての長い記事が出た。
ジジはたちまち人気者になり、ラジオやテレビに出演し、まもなく大邸宅に移り住んだ。
ますます膨らんでくる需要に追いつけず、ある日ジジは、モモだけのために作ってあった物語を話してしまう。
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でもこの話もほかのどうよう、みんなはよく味わいもせず飲みこんで、またたちまちわすれてしまいました。そして、あとからあとから話を要求するのです。
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ジジに起こったことは、エンデ自身に起こったことでもあったそうだ。
最初の児童文学『ジム・ボタン』シリーズの成功によってマーケティング機構に巻き込まれたエンデは、、PRプロモーションイベントに駆り出され、百貨店でサイン会までしなければならなかった。
「・・・ここでわたしがしているのは、いったい何なのか?こうはなりたくないと思っていたのに、今わたしはそこへ行きついてしまったのだ。」
(『ものがたりの余白』−エンデが最後に話したこと−より」
エンデは世間が自分を忘れるまで、マーケティングの騒々しさを拒否することにした。そうして10年の沈黙の後、『モモ』が生まれた。
もう何も考えだせなくなったにもかかわらず、成功に見放されるのが怖くなったジジは、今までの物語を少し変えただけのものを話すが、誰もそれに気がつかず、注文が減ることもなく、今や大金持ちの有名人になっていた。
それこそ、彼がいつも夢見ていたことだった。
昔の友だちが懐かしくてたまらなくなったジジは、灰色の男たちのことをみんなに話そうと決心する。
そのとたん、電話のベルが鳴った。
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「おまえをつくり出したのはわれわれだ。おまえはゴム人形さ。われわれが空気を入れてふくらましてやったのだ。
・・・
おまえがいまのようになれたのは、おまえのそのけちな才能のおかげだとでも、ほんきで思っているのか?」
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ジジのにわか成功の背後には、灰色の男たちが関わっていた。そして、真実を語ろうと決めたジジを脅す。
このあたりは、今あらためて読み返してみるとかなり怖い個所だ。
成功し有名で影響力のある人物が、何らかの真実を明かそうとした時に不慮の死を遂げるようなことが、時々起こっていないだろうか?
モモの世界の人々は、気づかないうちに灰色の男たちの策略に巻き込まれていった。
灰色の男たちに対抗するのに、デモや人々への説得という普通の方法は役に立たなかった。
以前にも書いたように、モモは行為ではなく“存在”においてヒーローだったのだ。
どうすれば、何をすればいいのかと行き詰まったときに、“わたしはどう在るのか”ということが別次元の道を開いたりする。
モモが書かれてからちょうど50年、子ども向けファンタジーという姿を借りて描かれた世界は、ますますリアリティを増して見える。
2023年01月29日
ジジの悲劇
posted by Sachiko at 22:30
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| ファンタジー
2023年01月19日
エキナセア
少しばかり喉の痛みを感じて、風邪かな...熱はないし、例のヤツではなさそうだ。とりあえず喉に効くエキナセアのお茶を飲んでおこうと思った。
数回飲んで痛みは軽くなり、ほとんど気にならないほどだが、ハーブにそれほどの即効性はないはずだ。
最初から大したことではなかったのだろう。

一頃は30種類ほどのハーブを植えていた。
その後、薬用ハーブはプロが栽培したもののほうがいいのかもしれないと思ったので、今は半分くらいに減っている。
最近、やはり作物はなるべく自分の近くで採れたものがその人の栄養になるのだという話を聞いた。自分のところに届くまでのプロセスが多いほど、栄養は少なくなるのだとか。
たしかに昔から、身土不二という言葉がある。単に輸送に時間がかかって鮮度が落ちるというだけの話ではないらしい。
自分の畑で収穫してすぐ食べるのが一番だ。
野菜もハーブも、自分を育ててくれた人の役に立ちたいのだ。
そうして自分や家族のための薬草園を管理していた女性たちが、あるとき魔女にされてしまった....と、想像が遠くへ飛んでいく。
土地がなければベランダでも、鉢植えのハーブは育てられる。
パセリやタイムなど、料理用ハーブを少しばかり植えて、必用な時に摘んで使う。
そんな日常が、“自分自身の”暮らしになる。
真夏に咲くエキナセアやセントジョンズワート(冬場の鬱に効く)が、真冬に活躍することも、自然の素敵な采配だ。
数回飲んで痛みは軽くなり、ほとんど気にならないほどだが、ハーブにそれほどの即効性はないはずだ。
最初から大したことではなかったのだろう。

一頃は30種類ほどのハーブを植えていた。
その後、薬用ハーブはプロが栽培したもののほうがいいのかもしれないと思ったので、今は半分くらいに減っている。
最近、やはり作物はなるべく自分の近くで採れたものがその人の栄養になるのだという話を聞いた。自分のところに届くまでのプロセスが多いほど、栄養は少なくなるのだとか。
たしかに昔から、身土不二という言葉がある。単に輸送に時間がかかって鮮度が落ちるというだけの話ではないらしい。
自分の畑で収穫してすぐ食べるのが一番だ。
野菜もハーブも、自分を育ててくれた人の役に立ちたいのだ。
そうして自分や家族のための薬草園を管理していた女性たちが、あるとき魔女にされてしまった....と、想像が遠くへ飛んでいく。
土地がなければベランダでも、鉢植えのハーブは育てられる。
パセリやタイムなど、料理用ハーブを少しばかり植えて、必用な時に摘んで使う。
そんな日常が、“自分自身の”暮らしになる。
真夏に咲くエキナセアやセントジョンズワート(冬場の鬱に効く)が、真冬に活躍することも、自然の素敵な采配だ。
posted by Sachiko at 22:41
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| ハーブ
2023年01月07日
エピファニーを過ぎて
12聖夜の特別な領域が明けエピファニーも終わると、時空が日常に戻ったのを感じる。
そして毎年のことながら、少しばかり日が長くなっているのに気づく。
冬至の頃から見ると、日没が13分遅くなっている。日の出は3分早くなっただけ。
たったこれだけの違いでも、感覚はいちばん暗い時期を過ぎたことを敏感に感じとる。
そしてこれも毎年のことながら、本格的な寒さと雪はこれからだ。
夏も、暑さのピークは夏至を過ぎてからやってくる。
天文学的な位置関係と地上の現象とのあいだにはタイムラグがある。
よく言われる「いちばん暗い時は夜明け前」という言葉が、私にはどうも不思議だった。
どう考えても、一番暗いのは真夜中じゃないか?と思っていた。
ひょっとしたら、タイムラグのある現象のほうを指しているのだろうか。
連日の真冬日の中で雪が降り続き、うず高く積もって、もうたくさんだ!という頃に、最高気温がプラスに転じ、雪解けが始まる。
一番キツい時が春間近で、このようにして迎える春は格別だ。
近年はあまり真冬日が長く続かず、冬フリークとしては物足りないところだけれど。
--------------
今日で松の内もおしまい。
遅くなりましたが、本年もよろしくお願いいたしますm(_ _)m
そして毎年のことながら、少しばかり日が長くなっているのに気づく。
冬至の頃から見ると、日没が13分遅くなっている。日の出は3分早くなっただけ。
たったこれだけの違いでも、感覚はいちばん暗い時期を過ぎたことを敏感に感じとる。
そしてこれも毎年のことながら、本格的な寒さと雪はこれからだ。
夏も、暑さのピークは夏至を過ぎてからやってくる。
天文学的な位置関係と地上の現象とのあいだにはタイムラグがある。
よく言われる「いちばん暗い時は夜明け前」という言葉が、私にはどうも不思議だった。
どう考えても、一番暗いのは真夜中じゃないか?と思っていた。
ひょっとしたら、タイムラグのある現象のほうを指しているのだろうか。
連日の真冬日の中で雪が降り続き、うず高く積もって、もうたくさんだ!という頃に、最高気温がプラスに転じ、雪解けが始まる。
一番キツい時が春間近で、このようにして迎える春は格別だ。
近年はあまり真冬日が長く続かず、冬フリークとしては物足りないところだけれど。
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今日で松の内もおしまい。
遅くなりましたが、本年もよろしくお願いいたしますm(_ _)m
posted by Sachiko at 14:50
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| 季節・行事