星の世界を描いた宮澤賢治作品と言えばまず『銀河鉄道の夜』が思い浮かぶが、『銀河鉄道の夜』はこの世界の話から始まって、やがて星の世界に旅立っていく。
星の世界のみで展開する物語は『双子の星』だけのような気がする。
全作品を読んではいないので、他にもあるかもしれないけれど。
チュンセ童子とポウセ童子という双子のお星さまが、天の川の端にある小さな水精(すいしょう)のお宮に住んでいる。
もうこれだけで、透きとおるような星界の香りがする。
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夜は二人とも、きっとお宮に帰って、きちんと座り、空の星めぐりの歌に合せて、一晩中銀笛を吹くのです。
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魂体、感情体を表す「アストラル体」は、文字通り“Astral(星の世界の)体である。
この世を去った魂は「星に帰る」などと言ったりするのも、満天の星を戴く無辺の宇宙が魂の世界そのものだと、古い時代から知られていたのだ。
星空を見上げたとき、この人生を超えたところに真のふるさとがあると思い起こさせるような不思議な気分は、そういうことなのだろう。
双子の星の話は『銀河鉄道の夜』の中でも、途中から乗り込んできた幼い姉弟が、丘の上に水晶のようなお宮が並んでいるのを見つけた時の会話として登場する。
「双子のお星さまが野原へ遊びにでてからすと喧嘩したんだろう」
「そうじゃないわよ。あのね、天の川の岸にね。おっかさんお話なすったわ、....」
「それから彗星(ほうきぼし)がギーギーフーギーギーフーって云ってきたねえ」
双子の星の物語は二章に分かれている。
はじめの章では、夜が明けて野原へ遊びに出た双子のところに大烏の星と蠍星がやってきて戦い、双方とも深い傷を負ってしまう。
ふたりは蠍を空の家に連れて行こうとするが、蠍の身体は重すぎて、夜までにたどり着けそうもない。
そこへ王様の使いの稲妻がやってきて蠍に薬を与え、双子をお宮に送り届けてくれるのだった。
次の章ではお宮に彗星がやってきて双子を旅に誘う。
「さあ、発つぞ。ギイギイフウフウ。ギイギイフウ。」
ふたりは彗星に騙されて海に落ちてしまうが、今度は竜巻に助けられてお宮に戻る・・・
水晶のお宮で銀笛を吹く双子のお星さまのイメージは、純粋性そのもののようだ。
「星めぐりの歌」には、賢治自身が曲をつけている。
あかいめだまの さそり
ひろげた鷲の つばさ
あおいめだまの 小いぬ
ひかりのへびの とぐろ
オリオンは高く うたい
つゆとしもとを おとす
アンドロメダのくもは
さかなのくちの かたち
大ぐまのあしを きたに
五つのばした ところ
小熊のひたいの うえは
そらのめぐりの めあて
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『双子の星』より
https://fairyhillart.net/gallery1.html
posted by Sachiko at 22:36
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宮澤賢治