「庭仕事の愉しみ」は、ヘッセの没後30年の1992年に刊行されたものなので、内容は編纂者によって選択されている。
それで久しぶりにデミアンを手に取ってみた。
目に付いたのは「ベアトリーチェ」の章で、主人公の青年が自堕落な生活に陥っていた時、ある日公園で見かけた少女に強く惹かれる。
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私は彼女にベアトリーチェという名前をつけた。
ダンテを読んだことはなかったが、自分のしまっていたイギリスの絵の複製によってベアトリーチェのことを知っていた。
それにはイギリスのラファエル前派の、手足の非常に長くすらりとした、頭が細長く、手や表情が精神化された少女の姿が描かれていた。
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私もダンテは読んだことがなく、ラファエル前派の絵はたぶん、ロセッティの“ベアタ・ベアトリクス”かと思ったが(ベアトリクスはイタリア語ではベアトリーチェ)、手足が長いと書かれているのに、この絵は上半身しか描かれていない。

調べてみたらベアトリーチェを描いた作品は他にも何点かあるけれど、家にあるラファエル前派の画集には載っていなかった。
ダンテは子どもの時にベアトリーチェに出会って強く恋心を抱いたが、ベアトリーチェ本人は若くして亡くなっている。ダンテにとってベアトリーチェは象徴的な崇拝の対象となっていたようだ。
この話はどこか、ノヴァーリスと、彼にとってのマドンナだった15歳で亡くなった恋人ゾフィーの関係を思い出させる。
「デミアン」にはノヴァーリスの名も出てくる。
そして、主人公の青年シンクレールが友人デミアンの母であるエヴァ夫人に抱いた想いにも似ている。
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・・・自分の本性が引きつけられて目ざす対象としているのは彼女その人ではなくて、彼女は私の内心の象徴であるに過ぎず、私をひたすらより深く私自身の内部に導こうとしているのだ・・・
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ところでデミアンの本の中に、古い四つ葉のクローバーが挿まれているのを見つけた。これは憶えている。学生の時、1級下の男の子からもらったものだ。
互いに好意を持っていたことはわかっていたけれど、お付き合いには至らなかった。全くの余談.....