2025年11月22日

ブルカニロ博士・4

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いいかい、これは地理と歴史の辞典だよ。この本のこのページはね、紀元前二千二百年の地理と歴史が書いてある。よくごらん、紀元前二千二百年のことでないよ。紀元前二千二百年のころにみんなが考えていた地理と歴史というものが書いてある。

だからこの本のページ一つが一冊の地理の本にあたるんだ。いいかい。そしてこの中に書いてあることは紀元前二千二百年ころにはたいていほんとうだ。さがすと証拠もぞくぞくと出ている。けれどもそれが少しどうかなとこう考えだしてごらん、そら、それは次のページだよ。
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ここに書かれていることを、紀元2025年と置き換えてみよう。
2025年のことではなく、2025年にみんなが考えていること、だ。
それらは2025年ころには大抵ほんとうらしく、最新の科学で証明された!という証拠を示すこともできるだろう。

こうして現在正しいと言われていることも遠からず別の考えに取って代わられ、歴史を俯瞰して見ると、悠久の変化の中の今なのだと知る。

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紀元一千年。だいぶ、地理も歴史も変わってるだろう。このときにはこうなのだと変な顔をしてはいけない。ぼくたちはぼくたちのからだだって考えだって、天の川だって汽車だって歴史だって、ただそう感じているのなんだから、そらごらん、ぼくといっしょにすこしこころもちをしずかにしてごらん。いいか。」
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その大きな本にはきっと、遠い過去だけでなく、遥か未来のことまでも書かれているような気がする。宇宙全体の時空を見渡す目によって。
 
posted by Sachiko at 21:41 | Comment(0) | 宮澤賢治
2025年11月16日

ブルカニロ博士・3

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「おまえはおまえの切符をしっかり持っておいで。そして一しんに勉強しなけぁいけない。おまえは化学をならったろう。水は酸素と水素からできているということを知っている。いまはたれだってそれを疑やしない。実験してみるとほんとうにそうなんだから。
けれども昔はそれを水銀と塩でできていると言ったり、水銀と硫黄でできていると言ったりいろいろ議論したのだ。

みんながめいめいじぶんの神さまがほんとうの神さまだというだろう。けれどもお互いほかの神さまを信ずる人たちのしたことでも涙がこぼれるだろう。
それからぼくたちの心がいいとかわるいとか議論するだろう。そして勝負がつかないだろう。」
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何も存在しないと言われている真空の宇宙空間は、古い時代には精妙なエーテルというものに満たされていると信じられていた。
このエーテル空間説は、今また一部でひそかに見直されているらしい。

どの神さまがほんとうだとか異教だとか、心がいいとかわるいとか、こういう議論も今なお終わらない。
お互いほかの神さまを信ずる人たちのしたことでも涙がこぼれる...歴史の中でここに至るには、幾つもの時代を超える必要があっただろうか。

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「けれども、もしおまえがほんとうに勉強して実験でちゃんとほんとうの考えと、うその考えを分けてしまえば、その実験の方法さえきまれば、もう信仰も化学とおなじようになる。」
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その実験の方法とは何だろう。実験というと何だか無機的に聞こえるけれど、信仰も化学も同じようになる領域に立つのは、宇宙空間から地球全体を見るような感覚だろうか。

そこから見れば昼と夜、夏と冬は分かれていない、海と陸は分かれていない。
そして生と死も分かれていないのなら、銀河鉄道の旅は、この世界を超えた「ほんとうの幸福」を探して静かなエーテル空間を行く旅のようだ。
 
posted by Sachiko at 22:43 | Comment(0) | 宮澤賢治