2025年05月09日

オシラサマ

柳田邦男の『遠野物語』にも収録されている『オシラサマ』の話を最初に知ったのは中学生の時で、何かの雑誌に、木で作られた単純な形の馬の首に色とりどりの布を着物のように着せた像が祀られている写真が載っていた。

伝説では、ある農家の娘が馬と恋仲になったことを知って怒った父親が、馬を桑の木に吊るして殺し、その首をはねてしまう。
娘は馬の首にすがりついて嘆き悲しみ、やがて娘と馬の首はいっしょに昇天する。
ある晩父親の夢に娘が現われ、桑の木で自分たちの像を彫って祀ってくれるようにと告げた...という話だった。


人間と動物の異類婚姻譚は世界中にある。
メルヒェンではよく口をきく動物が出てくるが、その正体は動物そのものではなく魔法にかけられた王子である場合が多い。(擬人化された動物物語はまた別の話)

『かえるの王さま』の蛙、『雪白とばら紅』の黒熊、『ロバの王子』では王子は最初からロバの姿で生まれてくるが、お姫様と結婚して人間の姿に戻る。


日本では「鶴女房」など、動物が人間の姿をとることが多い。
狐や狸が人間に化ける話も多々ある。

人間界と動物界は、魂を共有している。
かつて、まだ自然の力が圧倒的に強かった時代、人間界と他の世界は今よりはるかに近く、互いに交差し合っていたのだ。


オシラサマの馬は、魔法にかけられたのでもなく人間に化けるわけでもない、最初から馬だ。
東北に行った時、文化財として保存されている〈南部曲がり家〉を見たことがある。L字型の造りになった家の、片側が人の住む主屋で、もう一方は厩になっている。
人と馬は家族のように、一つ屋根の下に住んでいてとても近い存在として暮らしていたのだろう。

 
posted by Sachiko at 16:50 | Comment(2) | 神話・伝説・民話
この記事へのコメント
一度だけ 
馬に乗ったことがあるのですが
とても目が可愛くて
お腹を足で蹴らないと
動いてくれないのですが
なかなか 力を入れて
蹴ることができませんでした。
Posted by にゃん太郎 at 2025年05月11日 20:32
馬に乗ったことがあるのですね、すごい♪
ヘルマン・ヘッセの何かのエッセイの中に、
「現代の人間にとって読み書きができるということは、
せいぜい馬に乗れるというくらい簡単なことだ」
というようなことが書かれていて、
誰もが簡単に馬に乗っている時代があったのか、と
驚いたのでした。
Posted by Sachiko at 2025年05月11日 21:36
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