2024年12月16日

「おもいでのクリスマスツリー」

「おもいでのクリスマスツリー」
(グロリア・ヒューストン 文 バーバラ・クーニー 絵)

バーバラ・クーニーの絵による、これももう古典的なクリスマス絵本。

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山奥の小さな村では、毎年交替で決まった家が教会にクリスマスツリーを立てるしきたりがあり、その年はルーシーの家が当番だった。
春、パパとルーシーは、山奥の崖のてっぺんに、ぴったりのバルサムモミの木を見つけた。

夏、パパは兵士になって、海の向こうの戦場へ行った。
ルーシーは毎晩、「どうか、パパをクリスマスまでにおかえしください」とお祈りをした。そして、サンタクロースがきれいなお人形を持ってきてくれるように願った。

秋、パパから、戦争が終わったのでクリスマスまでには帰れるという手紙が届いた。
けれどパパが帰ってこないまま、クリスマスイブまであと一日になった。
クリスマスツリー当番の今年は、ルーシーが劇で天使の役を演じることになっている。大きなそでのある新しい服を作らなければならない。

夜遅く、ママとルーシーはコートを着て、馬をそりにつなぎ、崖の上の、パパが選んだバルサムモミのところに行った。
斧とのこぎりで切り倒した木をそりに載せて尾根を下り、教会の前に木を立てた。

家に帰ったママはルーシーが眠ったあと、クリーム色の結婚衣装で小さいドレスを仕立て、絹の靴下で人形を作り、ルーシーの服の残り布で人形のドレスを作った。

夕方、ルーシーはドレスを着せてもらった。
クリスマスツリーのてっぺんには、小さな天使がいた。
劇が始まり、ルーシーが両腕を上げた姿は天使のように見えた。

サンタクロースがやってきて、子供たちはみんなプレゼントをもらい。ルーシーはさいごにツリーのてっぺんの天使の人形をもらった。

人々が教会を去りはじめたとき、サンタクロースが、ルーシーにはもうひとつプレゼントがあると言った。
サンタクロースの横に立っていたのは・・・
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クリスマスツリーのてっぺんには星を飾るのが一般的だけれど、少し古い時代には天使を飾っていたそうだ。

パパの代わりに木を切り倒して戻って来た時、夜が明け始めていた。
それから夕方までに、古いドレスからルーシーのドレスを作り、お人形とそのドレスも作ることができるのか...と思うけれど、時間がゆっくりと流れていた時代には、そんなこともできたのかもしれない。
それにその日はクリスマスイブなのだから、奇跡だって起こる。

このお話は、原作者の故郷であるアパラチアの山奥の村の、実際の風習に基づいて書かれている。
戦争があり、いろいろな困難があったにもかかわらず、温かなクリスマスが祝われたのだった。

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posted by Sachiko at 22:49 | Comment(2) | 絵本
2023年12月09日

「みどりいろのつりがね」

「みどりいろのつりがね」
(オトフリート・プロイスラー作/ヘルベルト・ホルツィング絵)

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昔々、ロシアのある村でイワンという村人が、畑の土の中に大きな青銅のつりがねが埋まっているのを見つけた。
村人たちはおどろき、不思議に思った。そして人々はそのつりがねを下げるやぐらを作った。

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かねの音をきいたひとは、だれもがあたらしく 生まれかわったようなきもちになるのでした。
その音色は なやみやしんぱいごとを ふきとばしました。
さみしいものや、やんだもののこころにも、やさしくひびきました。
かなしみあふれるこころに きぼうが生まれました。
どんなにまずしくてもゆたかなきもちがめばえました。
そして、ゆたかなものは、まずしいものに 手をさしのべるようになりました。
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ある日、つりがねの話がロシア皇帝の耳にはいると、皇帝はそれを自分のものにして城につり下げるつもりで、村人たちの願いも聞かず、つりがねを荷車にのせて城へ運ぼうとした。
ところが、たくさんの馬や牛や兵士たちが引いても荷車はびくとも動かない。怒った皇帝はかなづちでつりがねを粉々に打ち砕いてしまった。
イワンは、つりがねのかけらを集めて土にもどそうとしたが....


チェコ生まれのドイツの児童文学作家オトフリート・プロイスラーは、「大どろぼうホッツェンプロッツ」「クラバート」「小さい魔女」等の作品で知られている。

この「みどりいろのつりがね」はプロイスラーのオリジナル作品と思われるが、名作「クラバート」と同じように、古い伝承が土台になっているような雰囲気もある。

聞いた人々みんなの魂を引き上げる鐘の音。
この物語の語り口は、純粋なおとぎ話のようにシンプルですがすがしい。
傲慢な皇帝のもくろみはうまくいかず、つりがねを神さまからのさずかりものとして大切に思うイワンと村人たちは、最後に恵みを受ける。

挿絵は「クラバート」と同じヘルベルト・ホルツィングが描いていて、プロイスラーの作品にとても合っている。
  
posted by Sachiko at 22:21 | Comment(4) | 絵本
2023年09月13日

「きりのなかのはりねずみ」

「きりのなかのはりねずみ」
(ノルシュテインとコズロフ作 ヤールブソワ絵)

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日がしずんでうす暗くなってきたころ、はりねずみはこぐまの家にでかける。こぐまの好きな野いちごのはちみつ煮を持って。

みみずくがこっそりとついてくる。
霧のなかに、白い馬がうかんでいる。
霧のなかに入ってみるけれど、馬のすがたは見えない。


はりねずみは霧のなかをさぐりながら進んでいく。
銀いろの蛾がおどり、みみずくが顔を出してはまたいなくなる。

大きなカシの木の枝にあたってびっくりし、
野いちごのつつみを忘れてしまう...


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最初から最後まで、物語は薄暗い霧の中で進んで行く。
忘れものを届けてくれた犬も、川に落ちたときに助けてくれた魚も、森の木も、登場する生きものたちはみんなぼんやりとして、はっきりと全身の姿を現すことはない。

やっとのことでこぐまの家にたどりつき、やさしい気もちでいっしょに星を見る。
そして、あの白い馬のことを考える....

神秘的な霧の中の、夢見るような、深く不思議で温かな世界が、色味の少ない絵で描かれている。
はりねずみが惹かれた、白い馬の存在が美しい。

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posted by Sachiko at 22:43 | Comment(4) | 絵本
2023年07月28日

「ちいさなとりよ」

「ちいさなとりよ」
(マーガレット・ワイズ・ブラウン 文 / レミイ・シャーリップ 絵)

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これも古典で、この版はすでに絶版になっていて、別の画家による新版が出ているらしいのだが詳細はわからない。


あらすじ

子どもたちが、死んだ鳥が草の上によこたわっているのを見つける。

子どもたちは森におはかを掘り、葉っぱの上に鳥をねかせて、上にも葉っぱをかぶせ、花をかざった。

そしておそうしきの歌をうたいながら土をかぶせ、また花をかざって石を上においた。

「しんだ とり ここに ねむる」

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 こどもたちは とりの ことを わすれてしまうまで

 まいにち もりへ いって きれいな はなを かざり

 うたをうたいました

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子供たちが死んだ鳥を見つけてお葬式をする、たったそれだけの、短いが濃密なお話。

ある年代以上の人かもしれないけれど、子どもの頃に虫や小鳥や金魚など、小さな生きもののお墓を作ったことのある人は少なくないだろう。

今は、都会では土のある場所が少なく、子どもたちが自由に入って地面を掘ることのできる場所はもっと少ない。

けれどそれは体にも心にも刻み込まれる大切な思い出なのだ。
物語の中の子どもたちのように、やがてその小さな生きもののことを忘れてしまったとしても。


ある年の夏休み、蝉の脱皮を見た。
殻の中から、薄みどり色の蝉が出ようとしている。
が......

いつまでたっても蝉はそれ以上動かなかった。
後で知ったが、蝉の羽化は夜明け前に起こるらしい。
その時はすでに日が高く上っていた。

もうすぐ生まれると思って見ていたのは、脱皮に失敗して死んでしまった蝉だったのだ。
私たちは、何ともいえない気分になっていた。
あの蝉をその後どうしたのかは憶えていない。


大人たちが事あるごとに口にする「いのちの大切さ」という慣用句になり形骸化させてしまった言葉より、こうした小さなできごとが重みをもつ。

だからといって大人たちが、小さい生き物のお葬式を体験学習としてプログラムするような馬鹿なことを思いついたりしませんように。そういうことではないのだ。

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posted by Sachiko at 16:22 | Comment(2) | 絵本
2023年04月25日

絵本《音色に耳をかたむけて》ご案内

HPのトップにリンクを貼ってありますが、こちらで紹介していないという片手落ち...(^^;
この度、絵本を出版いたしました。

《音色に耳をかたむけて》
Clover出版より5月2日発売です。

Amazonで予約受付中。
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追記:楽天ブックスはこちら
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ウサギの耳を持つちいさな妖精が、そっと耳をかたむけるものは....

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posted by Sachiko at 14:38 | Comment(2) | 絵本