2026年06月11日

アーサー王伝説の息づく地

「コーンウォール--妖精とアーサー王伝説の国」(井村君江)から。

アーサー王ゆかりの場所であるティンタジェル城の話は以前、水の精の話のなかで少し触れたことがある。
コーンウォールの岬では、波が常に動き、光、空気、霧の自然霊が止むことなく活動しているという話だった。

私はティンタジェル城という名前にはなじみがなかった。
アーサー王の城といえばキャメロットではなかったか?と思ったのだ。
キャメロットは居城であり、生誕の地がティンタジェル城ということだが、これもさまざまな話が交錯している。


英雄の典型的な特徴として、特異な出生と悲劇的な死が挙げられる。

コーンウォールの美しい王妃に想いをかけたイングランド王ウーサーは、魔術師マーリンの魔法で姿を変えてもらい、夫と思わせて王妃と床を共にし、アーサーが生まれる。
その時の約束で、アーサーはマーリンに引き取られて育てられる。

ちなみに魔術師マーリンもまた、美男に化けた魔法使いの男と人間の女性とのあいだに生まれた子どもということで、こちらも特異な出生になっている。


コーンウォール地方では各地に城塞や教会などの跡があり、考古学と伝説が結びついていて、キャメロットがあった場所も諸説あり、まだ特定されないまま研究が続けられているそうだ。

聖剣エクスカリバーが沈められたと言われている湖もあるのだが、これもまだ一か所に特定されていないようだ。

伝説は生きもので、語り伝えられるうちにさまざまな逸話が加えられたり、また枝分かれしたりして変容を重ねていく。
伝説が色濃く息づいている土地は、自然の精霊たちが今も活発にはたらいている地でもあるのだろう。
 
posted by Sachiko at 17:33 | Comment(0) | 神話・伝説・民話
2026年05月19日

「コーンウォール 妖精とアーサー王伝説の国」

「コーンウォール 妖精とアーサー王伝説の国」(井村君江 著)

サブタイトルに釣られて買ってしまったが、ページ数の割には妖精とアーサー王の話はそう多くなかった。

妖精についての幾つかの伝説が紹介されている。
若い娘が終えられなかった麦打ちの仕事を、夜のあいだに妖精が片付けてくれるという話は、類話がヨーロッパ各地にある。
娘がその小さな裸の妖精に服を作ってやると、妖精は喜んで出て行き、二度と納屋に戻ってこなかった。
妖精に着るものを与える話はハリーポッターの中にもあった気がするが、このことにも何か古い意味があるのだろう。

人間が妖精と結婚して妖精界で暮らした話は、たいてい悲劇で終わるようで、興味深い記述がある。

「妖精の国へ行って帰ってきた人間は、ほとんど気がふれるか、この世への興味を失って生きる気力がなくなり、早死にする」

妖精の国に関する話は、以前紹介したアイルランドの妖精譚に書かれていたことと重なる。
・妖精たちの食べものや飲み物を口にしたり花を摘んだりすると、もう人間界には戻れない。
・人間が妖精に連れて行かれると、後には偽の死体が置かれる。これは人間の赤ん坊が盗まれ、後に妖精を残す取換え子(チェンジリング)と似ている。

「妖精は星を崇拝する拝星徒である」という話について井村氏は、昼間の太陽、夜の月に支配される太陽系の地球に住む世界とは異なり、妖精が星の支配する別次元の世界の住人であるという意味ではないか、と語っている。

この世への興味がいささか薄い私は、いつかどこかでうっかり妖精の国の何かに触れてしまったことでもあっただろうか、という気がしないでもない。
アーサー王伝説の話はまた次回。
  
posted by Sachiko at 22:34 | Comment(0) | 神話・伝説・民話
2026年04月29日

コーンウォール語

ケルトの物語の本を読んでいたら、コーンウォール語という言葉が出て来た。古い時代、ブリテン島にはゲール語やスコットランド語、ウェールズ語があったことは知っていたが、コーンウォール語は聞いたことがなかった。

イギリス南西部のコーンウォール地方には、かつてコーンウォール人という民族がいて、英語とは違うケルト系の言語を話していたそうだ。

ざっくり言えば、ドイツのザクセン人がブリテン島に渡ってサクソン人になった。ゲルマン系言語の英語は、元々はイングランドでしか使われていない言葉だった。

それが勢力を広げ、ケルト系言語を駆逐し、今や世界を席巻している。
このようにして消えてしまった小さな民族や言語は数多い。

一方コーンウォールといえば、アーサー王伝説のふるさとだ。
アーサー王は実在した王だったと言われているけれど、その実像はよくわかっていない。

小さなコーンウォールから、あの心躍るアーサー王物語がどのようにして生まれたのだろう。
少し調べようとしたら、こんな本が見つかった。
『コーンウォール −妖精とアーサー王伝説の国−』(井村君江)

妖精とアーサー王伝説!このサブタイトルは誘惑が大きすぎる♪
しかも著者は、妖精研究の第一人者井村君江さんだ。
あっさり誘惑に負けて、速攻古本で手に入れた(1997年刊の本)。

まだ読んでいないので、続きはまた後日...
  
posted by Sachiko at 23:07 | Comment(0) | 神話・伝説・民話
2025年05月09日

オシラサマ

柳田邦男の『遠野物語』にも収録されている『オシラサマ』の話を最初に知ったのは中学生の時で、何かの雑誌に、木で作られた単純な形の馬の首に色とりどりの布を着物のように着せた像が祀られている写真が載っていた。

伝説では、ある農家の娘が馬と恋仲になったことを知って怒った父親が、馬を桑の木に吊るして殺し、その首をはねてしまう。
娘は馬の首にすがりついて嘆き悲しみ、やがて娘と馬の首はいっしょに昇天する。
ある晩父親の夢に娘が現われ、桑の木で自分たちの像を彫って祀ってくれるようにと告げた...という話だった。


人間と動物の異類婚姻譚は世界中にある。
メルヒェンではよく口をきく動物が出てくるが、その正体は動物そのものではなく魔法にかけられた王子である場合が多い。(擬人化された動物物語はまた別の話)

『かえるの王さま』の蛙、『雪白とばら紅』の黒熊、『ロバの王子』では王子は最初からロバの姿で生まれてくるが、お姫様と結婚して人間の姿に戻る。


日本では「鶴女房」など、動物が人間の姿をとることが多い。
狐や狸が人間に化ける話も多々ある。

人間界と動物界は、魂を共有している。
かつて、まだ自然の力が圧倒的に強かった時代、人間界と他の世界は今よりはるかに近く、互いに交差し合っていたのだ。


オシラサマの馬は、魔法にかけられたのでもなく人間に化けるわけでもない、最初から馬だ。
東北に行った時、文化財として保存されている〈南部曲がり家〉を見たことがある。L字型の造りになった家の、片側が人の住む主屋で、もう一方は厩になっている。
人と馬は家族のように、一つ屋根の下に住んでいてとても近い存在として暮らしていたのだろう。

 
posted by Sachiko at 16:50 | Comment(2) | 神話・伝説・民話
2024年02月02日

神話の動物

「どこの土地でも、神話の動物は地球上の先輩たち、しばしば人間の先祖とみなされる」

動物は人間よりも早く地上に降りた。
先祖とみなされるのはある意味間違いではない(猿が先祖だという例の説はそれとは別の意味だが)。
動物や植物が先にやってこなければ、人間は地上で生きて行くことはできなかった。

以前にも書いたけれど、アイヌ民族にとって熊はキムンカムイ(山の神)であり、他の動物も植物も、山も川も自然界のすべてはカムイだった。

人を襲うようになった熊はウェンカムイ(悪い神)と呼ばれる。
近年ウェンカムイが多くなったのは、緩衝地帯の里山が減ったというだけでなく、人間が野生動物と魂レベルで繋がることができなくなってしまったからではないかと思う。


メルヒェンにもよく熊が登場し、ドイツのベルリン(Berlin)やスイスのベルン(Bern)の“Ber”は、熊に由来するという。
中央ヨーロッパの野生のヒグマは絶滅危惧種になっているが、北欧や東欧にはまだいるらしい。

フィンランドの神話の中には、自分たちの祖先は熊と少女の結婚によって生まれた、という物語がある。
熊は森の支配者であり、森そのものだったという。

アイヌ民族のイオマンテのように、フィンランドでも熊猟のあとには熊の魂を天界に帰す特別な儀式があるそうだが、似たものは世界各地にあったことだろう。

生きとし生けるものすべての中にカムイ(霊格)がある。
それは古くて稚拙な考えなどではない。
むしろカムイが見えなくなった現代人は、進歩したという錯覚の中、どれほど野蛮人になってしまっていることか。

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posted by Sachiko at 15:25 | Comment(2) | 神話・伝説・民話